第1回 鎌倉友禅
坂井 教人(Norihito Sakai)
昭和8年石川県生まれ。上京後、美研荘の中井英三、川崎一与四両氏に師事したのち昭和38年独立。鎌倉にて創作活動を開始。そして、昭和55年には紺綬褒章を賜る。
- きもの女子へひと言
- 「 用がなくても着たいもの。 一番好きなきものを着よう。 」
感性に点数はつけられない。
友禅とは、江戸時代に生まれた布に模様を染める技法のひとつで、京友禅、加賀友禅、東京友禅というのが広く知られていますが、今回紹介するのは、「鎌倉友禅」。鎌倉友禅の生みの親、坂井教人先生。先生がこの道を志したきっかけは昭和33年の伝統工芸展。そこでみた友禅に芸術を感じたのだそう。「染めにも神様がいるんだと思った」と思った先生は、その感動覚めやらぬままに鎌倉へ。
「創作の原点は、感動です。感動したら無性に描きたくなる」。身を置くだけでも感動を覚えるという精神性の高い鎌倉を仕事場に選んだ。「創作は考えるもの。5年考えたものもあるし、17年考えたものもある」というほど、頭に浮かんだもののみをきものに託していく。
たとえば、壊れたテレビの画面見ていて思いついた「白鳥」、新聞の桜前線を見てつくった「桜前線」。あくまでも商業ベースではなく、ひとつひとつが芸術品。感性の勝負。「誰もやったことのないことをやりたいんですよ。ただ1枚つくるごとに、目が疲れて眼鏡の度を一段上げなくてはならなくなる」というほど、乾坤一擲の手しごとなのだ。
さぞかし苦労なさったのだろうと伺ってみると、「この仕事はじめて60年になりますが、着物に苦労をつけて売ったりしません。プロは大変さをいってはならない。本当に研ぎすましたところだけいえばいい」との職人魂。そんな先生に最後に目標を聞いてみた。「100歳で現役!よくもこんな感性が!という言われるものをつくりたい。でもそのためには健康が一番。だから最近は怒らないようにしてます。健康に悪いから(笑)」
創作は、佳人を想像しながら。
(右) "白麗" 伝統工芸 第16回日本染織展入選
(中央) "木場" (左) "驟雨"(にわかあめ)
何もないところから頭にひらめいたものをカタチにする。だから毎日、創作に没頭している時間は楽しくて、感謝の気持ちであふれている、と語る坂井先生。さらに、女性はより美しくなろうときものを着るものだから、創作のときも美しい女性がまとう姿を想像しないといいものはできない、とも。先生の仕事は、感性が生命線なのです。