ニッポンの技は、いとステキ!

第2回 墨流し染め

高橋 孝之

高橋 孝之(Takahashi Takayuki)

昭和41年戸塚染色工芸社入社。49年『染めの孝之』を開き、独立。モノトーンから華麗な多色使いまで作風は幅広く、多くのファンを持つ。東京都染色工芸組合理事長。染色作家グループ・新樹会会長。

きもの女子へひと言
きものを知り、もっとたくさんのシチュエーションできものを楽しんでほしい。

江戸の粋は勢いにあり

江戸の粋は勢いにあり

「墨流し染め」とは、日本最古の染色技法のひとつ。大きな水槽に糊状のとろみをつけた液を張り、その上に顔料で色を浮かせる。そして棒や櫛、筆などで模様を描き、生地を浮かせて写し取るという手法だ。大正時代には神田川の清流を求めた染色工場や作家工房が、現在の新宿区内に多く点在。故に"染めの王国"と呼ばれた新宿・高田馬場に、高橋孝之氏の工房『染の高孝』はある。

墨流し染めは瞬間の染め

間近でその作業を拝見すると、水面に描き出される美しい模様は、すべてが偶然の産物にしか思えない・・・。「最初に思い描いたイメージの7~8割は水面の動き、模様の広がりなどをコントロールして創り出せます。残りはそのときのタイミングや体調、精神状態で変わります」。墨流し染めは"瞬間の染め"。一瞬のちょっとした手の動きが、そのまま模様になる。その模様を白生地に転写させるのも秒単位の仕事。このスピード感が好きだと、高橋氏は語る。

墨色といっても、1色じゃなくて、赤みや青みを混ぜて、鼠濃淡や藍濃淡といった複雑な色を出す

「京の雅に対して江戸の粋といいますが、江戸の粋は勢いの"勢"なんですよ。勢いの中に粋がある。でも勢いの中にもこだわりがある。たとえば、色。墨色といっても、1色じゃなくて、赤みや青みを混ぜて、鼠濃淡や藍濃淡といった複雑な色を出すんです」

京絞りの工房とのコラボレーション

伝統的な色だけではなく、高橋氏はパステル調の華やかな色使いの作品も多く手がけている。次は、京絞りの工房とのコラボレーションも考えているという。「ひとつの技法では、表現に限界がある。それらを融合して全く新しい作品を作っていきたいんです」