第4回 かんざし
寺内 誠(Makoto Terauchi)
1971年、東京・亀戸生まれ。20歳のときに父・士郎さんに弟子入りし、かんざし作りの世界に入る。現在は父とともに「寺内製作所」オリジナルのかんざし、帯留め、こうがい、帯飾りなどを制作している。
- きもの女子へひと言
- 「 きものにも洋服にも、今風の雰囲気を取り入れて自由に楽しんでもらいたい。 」
美しいかんざしは黒髪を彩る小宇宙
細い路地が連なる、下町の住宅街。その中の一軒家から、カタカタと機械の音が聞こえます。ここがかんざし職人・寺内誠さんの工房です。ヘアアクセサリーのひとつとして、古来、女性たちに愛されてきたかんざし。ことに江戸時代後期には装飾生を極めました。新しいもの好きの江戸っ子が、その時代の最先端の素材とデザインを積極的に取り入れたのです。この進取の心は、現代にも受け継がれているように思えます。
寺内さんがかんざしの素材として用いるのは、アクリル樹脂板。「安価だから、若い人でも気軽に使ってもらえるでしょう。きものだけでなく洋服にも合いそうだし。」シンプルな素材だから、品のある仕上がりになるかどうかは作り手の腕次第。慎重に、丁寧に。
「毎年、新しいデザインのものをたくさん作るようにしています。町を歩きながらも、何か参考になるものはないか、きょろきょろしているし、親父と話すのも仕事のことばかり。」
父親が始めたかんざし作りを自分もしたいと思ったのは、20歳の時だったと言います。決意するや否や「職人になるなら早いほうがいいから」と大学を中退してこの世界へ。以来、朝9時から夜中の1時ごろまでひたすら手を動かす毎日。寺内さんにとって、理想のかんざしは?「正直わからないのです。これは最高、というものを作れたことがないから。毎日迷う。でも、ほかにできることはないし…。」
華やかなかんざしの向こうにちらりと透ける、地道な努力の日々。でもそれは、人に喜ばれるものを作り出す原動力になっているはず。「つけてもらう角度によって、まったく違って見えるのが、かんざしの面白さだと最近思うようになりました。昔ながらの柄に今風の雰囲気を取り入れて、自由に楽しんでもらえる新しいものを作りたいです。」