ニッポンの技は、いとステキ!

第5回 桐生織

第5回 桐生織

長谷川博紀 Hiroki Hasegawa (左)

1971年三重県生まれ。結婚を機に群馬県桐生市に移住。森秀織物代表取締役として、織物・染色に関する体験資料館、織物参考館“紫”を運営している。

前原征海 Yukimi Maehara (右)

1942 年群馬県生まれ。18 歳で桐生織の職人になり、1991年、桐生織伝統工芸士としての認定を受ける。手織り教室などさまざまな場所で講師として活躍している。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

「桐生といえばやはりお召。江戸文化を彩っていたお召を、粋に着こなしてもらいたいですね」
 そう語るのは、群馬県桐生市にある森秀織物の代表取締役・長谷川博紀さん。お召とは「御召縮緬」を略した呼び方。第十一代徳川将軍家斉に愛された「御召物」に由来しています。普段着にもおしゃれ着にもなるのがお召の魅力。その手触りの上質さは、経糸の多さによります。他の織物よりもずっと多い、約4000本。着崩れしにくく、糸の先染めによる深い色合いも、優美な印象を与えます。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

もとは大手ガス会社の営業マンだったという長谷川さん。結婚を機に、奥さんの実家である森秀織物を訪れ、桐生織の世界に魅せられました。教科書のない世界で、力になってくれたのが伝統工芸士の前原征海さんです。「18歳のときから50年。ただ織物が好きだった。よくこの年まで続けさせてもらえたなって思うよ」

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

50年前、一緒に入社した職人仲間は138人。けれども今は前原さんただお1人。そこへ飛び込んだ長谷川さんは言います。「決してもうかる商売じゃないから、担い手はなかなか増えないだろうという実感はあります。だからこそ、展示会や販売会など実際に触れてもらえる機会は貴重です」

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

そんな長谷川さんの言葉に、「技術の面でも心配はしていないよね。まだ伝統工芸士じゃないうちの若い連中も、みんなできるから。難しいことがあれば『前原さん来てください』って呼ばれる。それで教えれば覚えるからさ」と前原さんが続けます。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

「展示会で『いつか買う』と言ってくれた人が、本当に何年後かに注文をくれることもある。最近は、きものに興味を示す若い男性が増えてきたのも、とてもうれしいですね」