ニッポンの技は、いとステキ!

第6回 手描き友禅

第6回 手描き友禅

腰原淳策(左)

1947年東京生まれ。63年、「腰原きもの工房」を創設した父・腰原新一より工房を継ぐ。

腰原英吾(中)

1978年東京生まれ。2002年、多摩美術大学日本画科卒業と同時に工房で着物制作を始める。

腰原信子(右)

1979年静岡県生まれ。多摩美術大学大学院で日本画を学んだ後、2006年より工房で修行。

5色から生まれる無限の色、豊かな気品

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

元禄時代の扇絵師、宮崎友禅が生み出したと言われる、友禅染。その華やかな技法は、京都、加賀、大阪、名古屋、江戸と各地に広がりました。  さて、ときは現代。東京・青梅市の「手描き友禅 腰原きもの工房」では、江戸友禅の伝統を受け継ぎながら独自の世界を育んでいます。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

工程はすべて手作業。まずは紙に描いた文様を生地に糊で描き(糸目描き)、染料を手差しして彩色します。糸目描きや糊ふせは手間がかかりますが、そのおかげで染料がにじまず、アウトラインがぼやけません。すべての色を差し終えたら地色を染め、生地を蒸して色を定着させます。不要な染料と糊を洗い落としたら、仕上げに入ります。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

「どんなに熟練しても、手の仕事にはどこかゆらぎが生まれる。そこに人の息づかいが宿り、味わいになっていくんでしょう」と腰原淳策さん。  ぴんと張られた反物の上に、染料を含ませた小刷毛が置かれる時は、彩色の行程の中で、白生地に命が吹き込まれる瞬間です。さらにぼかしの技法を加えると、奥行きと華やかさが増していきます。一反に用いる色は百色以上になることもあります。そのもとになっているのは、たった5色。赤、黄、グレー、紫、緑の染料を調合して無限の色を作るのです。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

しかも作家の感性と経験によってその都度ブレンドされるため、同じ色を完璧に再現することは難しいのだとか。一反一反が唯一無二、作り手にとっても一生でたった一度の出会いになります。

精緻な技巧の積み重ねが生む深い色合いと上品な光沢

「友禅はハレの機会に着るもの。だから彩色でも、身につけた人の魅力を引き出すような品のよさを大切にしたいと思っています」と英吾さん。
宮崎友禅が創案してから数百年。長い歴史を経てもなお同じものは生まれないという豊かさが、袖を通す人の個性を引き立てるのでしょう。作り手と色の、そして着る人と着物の一期一会を慈しみながら、今日も工房に色が満ちていきます。